朝、息子を教室まで送って出てきたら、
昇降口の脇で、男の子がしゃがみこんで、泣いていた。
そばに二人、クラスの子だろうか?男の子が立っていて、
泣いている子に何か声をかけている。
チャイムはもうとっくに鳴っている。
教室で席に着いてなくてはいけない時間だ。
近くに行くと、男の子たちは、
「立とうよ、もう戻ろうよ」と言っていた。
泣いている子は、そうする気配もない。
「どうしたの?」と声をかけたら、そばにいた子が、
「鬼ごっこで、狙い撃ちにされた」と言った。
狙い撃ちかぁ。
その子を除いた皆が結託して、どんなに他の子にタッチしても、
またその子を鬼にしてしまう、というやつだ。
「先生を呼んでこようか?」と聞いたら、
「もう呼びに行ったから、大丈夫だと思います」と、もう一人が言った。
そして、何年生なの?と聞いたら、5年です、と言った。
泣いてる子の前にしゃがんで、涙をふいてやる。
残りのティッシュを渡すと、受け取った。
やがて6~7人の男の子がバタバタと校舎から走り出てきて、
「ごめん」と謝りだした。
「もどろう」と声をかけている子もいた。
状況から、いじめというよりは、悪ふざけが過ぎたようだ。
自分は安全な集団にいて、誰かひとりを窮地に追い込んでからかう。
それを『愉快』と感じるのは、子供だけではない。
大人だって。
でもそれは卑怯なことで、うっかり足を踏み入れたら、
どこかで引き返さなくちゃいけない。
彼らはそうする前に、からかった子を、
授業にも行けないくらい傷つけてしまった。
やがて先生がやってきて、
「なんで違うクラスがいんの?」と声をかけた。
「え、〇組と〇組のやつらが一緒だったから」
そのうちの一人が答えた。
先生は子供たちに教室に戻るように指示した。
謝っていた子たちが、のっそり校舎に入って行く。
先生は、そこにいる私に、まるで気が付いてないかのように振る舞う。
しゃがんで泣いている子は、まだ立たない。
子供たちから手短に事情を聞いた先生は、彼に
「だったら、どうしてやるの?」と言った。
なんだ?、狙い撃ちにされるのが泣くほど嫌なら、
どうして鬼ごっこに参加するのかと聞いている、
いや、責めているのか。
子供の世界も、なかなかにややこしい。
私は、泣き止まない彼に顔を寄せて、耳元で言う。
いやなことはいやだって、ちゃんと言っていいんだからね。